研究内容
研究内容
溶射粒子の基材上での偏平・凝固挙動における支配因子の解明
セラミックスなどの難加工材料を厚膜体として成形する溶射法が近年注目されている。ただし
従来、溶射皮膜の膜質や基材への密着性の改善は、溶射条件を種々に変化させた試料を作製し、
これら試料の各種性能評価結果を、もとの成膜条件に反映する操作を繰り返す、極めて経験的な
手法によっていた。これは、同溶射プロセスが、極めて多くの関与因子の影響を多重的に受ける
ためである。
今後、溶射皮膜の膜質や密着性の効率的な改善あるいはより能動的な制御を可能とするために
は、皮膜粒子積層の支配因子の解明、とりわけ皮膜形成の最も基本的な素過程である基材上での
粒子偏平・凝固挙動に着目し、同挙動に関与する因子の特定ならびにその影響を明らかにするこ
とが不可欠である。
本研究では、基材温度を変化させた場合の種々の金属材料溶射粒子の基材上での偏平挙動に関
する系統的な研究を行い、そこでの支配因子の解明を行うことを目的とする。
基材上での溶射粒子の偏平・凝固挙動について、支配因子を特定し、その全容の解明を行う
ために、特に以下の諸点について検討する。
1)高温低速を特徴とするDCプラズマ溶射粒子と高速低温を特徴とするHVOF溶射粒子の
比較により、偏平挙動に対する粒子関連の各種因子の影響を明らかにする。
2)各種純金属材料とこれらの組み合わせより得た各種組成の合金粉末の偏平挙動を調査し、
偏平挙動に対する粒子組成の影響を明らかにする。
3)各種材質の基材上での各種溶射粒子の偏平挙動変化を系統的に調べ、粒子偏平挙動に対す
る基材/粒子間の動的ぬれ性の影響を明らかにする。
4)溶融金属の落下模擬試験を行い、粒子の偏平凝固挙動のその場観察を行う。これにより、
基材上での初期凝固の偏平挙動に対する影響を明らかにする。
5)不活性雰囲気中での溶射粒子の偏平挙動を調査し、偏平に対する雰囲気の影響を解明する。
6)実用的観点より、ブラスト処理面への成膜を行い、基材/皮膜の密着性と粒子偏平形態と
の関連を明らかにする。
7)粒子偏平凝固挙動のコンピュータシミュレーションを行う。
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- これまでに、平滑基材上でのプラズマ溶射粒子の偏平挙動に関する支配因子
の特定、ならびにその影響の解明について種々検討を行ってきた。
- 溶射粒子の偏平形態には、基材温度の上昇に伴いスプラッシュ状からディス
ク状への遷移現象が認められる。
- スプラッシュ状とは、飛び散りや放射などの特徴を持って、この部分の
割合が中央部より多いことである。
ディスク状とは、飛び散りや放射などの特徴を持ってない、ほぼ均一な円盤
状になることである。
偏平形態遷移温度Ttとは、基材温度を上昇させた場合に、粒子偏平形態が
スプラッシュを発生する形態から発生しなくなる形態へと遷移する分岐点を
示す基材温度である。
- 溶射粒子偏平挙動に対する基材関連諸因子にの影響について検討する。
- 基材側:温度、ぬれ性、熱伝導率、表面酸化膜、ヤング率など。
粒子側:温度、密度、粘性、速度、表面張力など。
- 供試材料と実験方法。
- 各種金属粉末材料を用いて、基材には、鏡面状に研磨したSUS304
鋼、炭素鋼、アルミ合金、チタン合金、ガラスを用い、種々の温度への加熱
保持を行い、大気中でのDCプラズマ溶射より、基材上で、偏平した溶射粒
子を捕集する。
- 粒子側の因子と言えば、遷移現象の有無は粒子の材質・物性に依存する。
- 室温基材上での粒子偏平形態は基材衝突直後の粒子初期凝固推算値と粒
子表面張力との関係により推定可能である。
- 基材材質変化に伴うNi粒子偏平形態の変化。
- 粒子偏平挙動に対し初期凝固がなんらかの影響を及ぼすならば、凝固度
合いが基材熱伝導特性に依存すると考えられる。
基材温度を変化させた際の種々の平滑基材上でのNi粒子の偏平形態を観察し
た。各基材について、ディスク状偏平形態発生頻度と基材温度との関係を整
理した結果をまとめてみる。偏平形態遷移温度が基材によって異なる。この
ような差違は、基材側の熱伝導性の違いに関連づけられるが、基材材質が異
なると粒子/基材界面でのぬれ性も同時に変化すると考えられることから、
両者の影響を分離するために、界面でのぬれ性あるいは基材熱伝導性を一定
とした上で基材材質の影響を調査する。
- 基材側の因子と言えば、基材の熱伝導性に依存する。
- 基材側因子には、基材温度が粒子偏平挙動の主支配因子であることは言
うまでもないが、スプラッシュ発生にかかわる粒子初期凝固には、内的因子
である基材の熱的特性が影響している。
スプラッシュ発生は粒子の基材衝突直後の初期急速凝固に関連すると考えら
れることから、各基材の物性値の中から特に熱伝導率に着目し、これと遷移
温度との関係を整理した。各基材の室温での熱伝導率と金蒸着膜付の基材上
での、偏平形態遷移温度との関係を整理してみる。これより、基材熱伝導率
が大きいほど遷移温度も高くなる傾向が認められる。遷移温度が高いほど粒
子はスプラッシュ状偏平形態を発生しやすいことから、上述の結果は、高い
熱伝導性を有する基材上ではスプラッシュ発生が促進される傾向があること
を示している。このことは、熱伝導性のよい基材ほど衝突時の粒子初期凝固
が起こりやすいことと対応しており、したがって今回の結果は、衝突時初期
凝固がスプラッシュ発生の一因であるとの考えを支持するものである。
- 基材側の因子と言えば、粒子/基材界面でのぬれ性にも依存する。
- 一方、粒子偏平には溶融粒子の表面張力が関与することを明らかにしたが、
本来、粒子/基材界面でのぬれ性は表面張力と界面張力との釣合として与え
られるものであり、表面張力のみでは十分ではない。したがって、液体の流
動状態を反映するぬれ性の粒子偏平に及ぼす影響についても調査する必要が
ある。
各種金属蒸着膜付きSUS304鋼基材上でのNi粒子の偏平におけるディスク状粒
子発生頻度と基材温度との関係を整理した結果をまとめて、各試料ごとに偏
平形態遷移温度を求めた結果、それらはかなり異なる値となった。このよう
な遷移温度の差異は、粒子/蒸着膜界面でのぬれ性の違いによるものと考え
られる。 蒸着膜の材質と得られた遷移温度との関係により、膜金属の活性
が小さいほど遷移温度は低く、活性が大きいほど遷移温度は高い、即ち、ス
プラッシュを発生しやすいことがわかる。
一般に固体酸化物に対する液体金属の静的ぬれ性は酸化物材料の熱力学的性
質に強く関わり、酸化物が熱力学的に不安定である程ぬれやすい傾向性が指
摘されている。そこで今回用いた蒸着膜金属について、それぞれが酸化物を
生成する際の標準生成自由エネルギ−を調べ、これと各膜上で得られた遷移
温度と573Kでの酸化物標準生成自由エネルギ−との関係が得られる。これよ
り、酸化物標準生成自由エネルギ−と遷移温度との間には明確な対応関係が
存在し、膜金属が不活性であるほど遷移温度が低い傾向を示している。この
ことは、ぬれに関する上述の性質から判断すると、粒子/膜間のぬれ性のい
いほど、スプラッシュは発生しにくいことを示している。粒子偏平に対する
動的ぬれの影響に関するメカニズムの解明は今後の課題であるが、溶射粒子
の偏平に対し、粒子/基材間のぬれ性も無視できない影響因子の一つである
と言える。
- 遷移温度付近の,Ni溶射粒子の基材上での偏平凝固挙動を詳細に調査することで、
スプラッシュ発生には粒子の基材付着直後の瞬時の凝固挙動が強く関与しており、
急速凝固部により液滴が飛び散りスプラッシュ状になると思われる。
- 溶射粒子の偏平形態遷移現象は溶射パラメ−タに依存することがわかった。
遷移温度範囲における典型的な粒子偏平形態観察例によって、完全な円盤状
と完全なスプラッシュ状との両方の特徴を合わせ持つ、中間形態が存在して
いることも認められた。基材付着後の粒子裏面、表面の観察を行った、スプ
ラッシュを発生しないNi粒子の裏面は粒子全体に均一、緻密な形態を呈して
いた。これに対し、遷移温度範囲およびさらに低い基材温度の場合、スプラ
ッシュの発生が認められる場合は、基材衝突部に多数の穴を伴う”放射状”
の凝固形態
を呈している。この穴は粒子が液滴状態の際に固溶したガスが表面に放出される間もなく急速凝固したため生じたと考えられる。また、放射
状組織は液滴の流れの軌跡と思われる。表面の形態と比較して考察すると、
スプラッシュを発生する場合は、基材衝突部が急速に凝固し、急速凝固部が
その上に存在する液滴に対して、”階段”のような働きをし液滴が飛び散り
スプラッシュ状になると考えられる。スプラッシュを発生しない粒子は、ま
ず偏平が先行し、それがほぼ完了した頃に凝固が起こったと考えられる。
一方、典型的なスプラッシュ状と円盤状形態の偏平粒子の凝固組織SEM観察
例により、スプラッシュ状粒子の場合は、円盤状粒子と比べて明らかに凝固
組織が細かく、凝固速度がかなり速いことが認められた。


